2021年02月05日
2019年末、中国の武漢で発生した新型コロナウイルス(COVID-19)は、あっという間に世界中に感染が拡大し、2020年はCOVID-19に翻弄された1年になりました。
本ブログでは、2020年の1年間で海上荷動きを含む世界の物流はどんな動きをしたのかを振り返ります。
2020年3月頃、急速なCOVID-19感染拡大封じ込め策の1つとして、各国が、一斉にロックダウン(都市封鎖)を実施しました。世界の主要地域で人の移動が制限され、生産・消費活動が一時的に停止されたことにより、様々な分野に大きな影響が及びました。もちろん、グローバルなサプライチェーンを支える海上輸送も例外ではありません。
各港では、港そのものや、隣接する工場への人の出入りが制限されため、港湾施設の稼働率が低下し、荷役の遅延等、港を発着する貨物のロジスティクスに混乱が生じたのです。荷役の遅延により、多くの船が滞船(港へ入港待機する船のこと)したこと、そして、急激な経済活動の縮小による荷動き減少が見込まれたため、船会社各社は、各航路に投入する船の減便など、調整を行いました。
特に、個人消費との関連が強い製品輸送(自動車、コンテナ等)は、2020年4月-5月を底に顕著に輸送量が落ち込み、産業用の原料輸送(鉄鉱石、石炭、原油等)についても荷動きが鈍化しました。一方、急激な石油需要減少によって原油の貯蔵タンクに在庫が積み上がり、タンカーが輸送ではなく洋上の貯蔵施設として需要が高まるという事態も発生しました。
世界中がCOVID-19感染拡大の対応に追われる中、素早い封じ込めに成功していた中国は、他国がロックダウンに入った3月頃から徐々に経済活動を再開しました。それ以前の2月前後は、中国の工場の生産停止や物流の遅延等によりサプライチェーンが混乱、中国頼みのグローバルサプライチェーンのリスクが顕在化した形となりました。しかし、各企業の懸念を払拭し、中国はいち早く経済を回復軌道に乗せ、生産活動を再開。滞っていた貨物だけでなく、新たに生産を増強、マスク・防疫品・医薬品等を積極的に輸出するようになりました。
3月-4月頃は、ロックダウン中の他国の港湾が混乱に陥っていたため、世界各国で需要がひっ迫していたマスクや防疫品、医薬品等急を要する貨物は航空貨物として飛行機で輸送されました。そのため、航空貨物の需要が増加、運賃の高騰が見られました。
(2020年4月頃は、平常時に比べ2倍近くも高騰)
6月に入り、各国が段階的にロックダウンを解除、経済活動を再開したことに伴い、製品・原料輸送共に、荷動きは回復基調に入りました。他国より一足早く経済活動を再開していた中国経済は、政府の積極的な景気支援策も奏功し、予測を上回るペースで力強い回復をみせました。2020年夏頃には、原油・鉄鉱石の単月の輸入が過去最高を更新するレベルとなりました。
(中国の原油・鉄鉱石輸入量は、共に2020年6~8月頃に最高値を更新)
出典:Bloomberg
※2020年上期(初頭から7月)のドライバルクマーケット動向(COVID-19の影響とともに)はこちら:ブログ:ばら積み船マーケットに影響を与えるポイントとは。カギは中国か。
さて、徐々に経済活動を再開した米国では、製品の輸入が動き出し、6月後半から7月にかけて、アジアから北米向けの運賃が上昇しました。2月の旧正月前からストップしていたアジアからの供給が、米国の経済活動の再開を受けて動き出したのが主な原因です。
その後も、巣ごもり需要(パソコンなどの電子機器、医薬品等)、米小売り業者の在庫の積み増し、住宅需要(資材、引っ越しに伴う日用品、家電製品、等)に加え、クリスマス商戦の前倒し等の様々な要因を背景に、輸入量のボリュームは、増加したまま高止まりしました。コロナ禍にもかかわらず、10月には、アジア発北米向けの荷動きは単月べースで過去最高を記録したのです。11月以降は、荷動き増加に伴う世界的なコンテナ不足、物流混乱(北米西岸での滞船が激化)したことが拍車をかけて、再度運賃上昇に転じました。
欧州は、当初運賃上昇の勢いはそこまで強くなかったものの、北米と比べて”相対的”に割安な運賃レベルだったため、売り先を欧州に変更する荷主も現れ始めました。すると今度は欧州向け航路が北米に遅れて運賃レベルが上昇し始めました。ちょうど年末のBrexitの混乱に備え、在庫の積み増しを行っていたこともあり、荷動きが高止まりしていたこと等も影響しました。
突然、供給と需要が一気にストップするという、前代未聞の事態に加えて、コロナ禍特有の需要の存在、度重なる行動規制やソーシャルディスタンス等の様々な要因が重なり、物流が混乱、ひいては運賃上昇を引き起こしたのです。
(2021年2月現在も、物流の混乱は続いており、各船社・関係者が平常化に向け対応中です。)
(上図:北米向けコンテナ運賃指数推移、下図:欧州向けコンテナ運賃指数推移)
出典:Freightos Baltic Index
長い間、海上荷動き(特にコンテナ荷動き)は、世界各国のGDP経済成長率と相関すると考えられており、荷動きの予測を立てる上で、重要な指標の1つであるとみなされてきました。パンデミック初期には、GDPの落ち込みと同じく、荷動きも大きく落ち込むと予想されていましたが、荷動きは、予想に反し堅調な結果となりました。コロナ禍特有の行動制限により、GDPに占める割合の高いサービス産業(コト消費)の落ち込みが大きかったのに対し、モノ消費は堅調に推移したため、生産活動の再開にあわせて、荷動きも回復していったというのが主な要因です。
GDPが、海上荷動きを考えるうえで重要な指標であることは今後も変わらないと思われますが、”個人に突然訪れた大きな生活の変化が消費行動を変え、大きなうねりとなって海上輸送荷動きに影響を与える”、ということが、今回のパンデミックを通じて判明しました。ソーシャルディスタンスと「巣ごもり」生活は、リモートワーク用のパソコンや携帯電話、住宅用資材や家具といった新しい需要を喚起し、国際物流の過半を占める海上輸送の需要を変化させたのです。
世界各国は、感染拡大の封じ込め策と経済活動の両立という繊細かつ困難な課題を抱え、積極的な景気対策、財政支援策を次々と発表しました。今回、最も特徴的だったのは、環境課題の解決とコロナ禍からの経済回復を同時に目指す“グリーンリカバリー”ではないでしょうか。世界の主要国が一斉に気候変動問題解決やカーボンニュートラル社会の実現にむけて目標(宣言)を発表、”まだもう少し先”と思われていたこれらの課題への対応が、コロナ禍を経て、”喫緊に解決すべき重要な課題”、として強く認識されるようになったのです。
世界各国が次々とグリーンリカバリー案を発表していますが、共通している政策として再生可能エネルギーの利用拡大、EV普及への取組み・支援等があげられるでしょう。
(2020年5月 グリーンリカバリー計画を公表した欧州委員会 出典:EURACTIV.com)
商船三井でも、洋上風力をはじめとして、水素・バイオ燃料を含む次世代代替燃料などの、低炭素事業を積極的に推進しています。詳細は、今後のブログでご紹介予定ですので、ぜひご注目ください。
”当たり前の日常が、当たり前であり続けること”。2020年、私たちはその”当たり前のこと”がいかに貴重だったのか、再認識したのではないでしょうか。それは、生活に必要なエネルギー・水・必要なモノが滞りなく届けられる事。人の往来が止まってしまっても、人々の日常がある限り、モノの流れが止まることはありません。
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商船三井の安全運航への取組みや輸送サービスなどをご紹介している、当社の会社案内はこちらからダウンロードできます:
記事投稿者:Masumi. H
2002年入社。社長秘書、ばら積み船の運航、経理、人事、と多種の業務+シンガポール駐妻を経験し、2018年からマーケティング部門にて、マーケットリサーチ(マクロもミクロもなんでもござれ!)を担当中。
当社サービスがこれからも“Beyond the world”することを目指して、日々アンテナはってます!
生クリームより、あんこが好きです。
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