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最新の船も帆を備える時代が来る (前編) ~Wind Challengerが示す「大型商船ゼロエミッションへの道」~

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2024年03月12日

2023年11月30日から12月12日までアラブ首長国連邦 (UAE) のドバイで開催されたCOP28において、当社は海運企業唯一、環境省が主催するジャパンパビリオンへ出展し、当社の技術・サービスや気候変動への取り組みを世界へ発信しました。現地では「船舶での風力発電技術の活用」をテーマに、次世代風力帆船「ウインドチャレンジャー」・グリーン水素生産船「ウインドハンター」の展示を実施し、多くのパビリオン来訪者や海運業界以外の関係者の方から当社の取組に対して大きな関心を持っていただきました。

COP28の現地レポートはこちら→COP28に参加しました!@ドバイ (mol-service.com)

今回は「ウインドチャレンジャー」に焦点を当て、本プロジェクトにかける想いや将来の展望など、開発担当者へのインタビューを交えて全3編に渡りお届けします。

「帆のある船が当たり前の時代」へ

世界初となる商船三井の伸縮式硬翼帆「Wind Challenger」を搭載した1号船「松風丸」が就航して1年が経った。従来の帆とは何が違うのか。また狙い通りに船からのGHG(温室効果ガス)削減につながっているのか。開発担当者の視線は既に、「帆のある船が当たり前の時代」へと向いていた。

日本~北米航路間で8%のGHG削減効果を生み出す巨大な帆


最も原始的だが、最も頼りになる存在。それが船にとっての風だ

人類がいつ頃から、風の力を利用して船を動かそうとし、そのために「帆」というアイデアを生み出したのか正確な記録はない。一方、現代の商船は帆を必要としない形に進化し続けてきた。にもかかわらず商船三井の水本健介は、「私たちの子ども世代が、『帆のない船は時代遅れだ』と言ってくれるようになるのが私の本望です」と笑う。

帆船                        風を受け推進力に変える帆船

技術・デジタル戦略本部の技術部技術開発企画チームでサブチームリーダーを務める水本は、船から排出されるGHG(温室効果ガス)を削減するための技術として商船三井が協力企業などと開発を進めてきた「伸縮式硬翼帆による風力推進装置 Wind Challenger」プロジェクトに携わってきた。伸縮式硬翼帆の開発は世界初のものだ。

そしてWind Challengerを搭載した商用1号船「松風丸(しょうふうまる)」が就航して2023年10月で丸1年になった。松風丸は、日本船舶海洋工学会が主催する「Ship of the Year 2022」にも選ばれた。選考委員会による受賞理由には、「風を利用した貨物船はオイルショック後にも登場しているが、地球環境保全の流れの中で、再び、開発が行われて、実用化までされたこと」を高く評価したと説明されている。

開発担当者                  技術・デジタル戦略本部 技術部 技術開発企画チーム 水本健介

スクリーンショット 2024-03-12 153448                           Wind Challenger搭載商用1号船「松風丸」

改めて松風丸を見る。松風丸は商船三井が運航するばら積み船(石炭輸送船)で、長さが約235メートル、幅が43メートル、最大喫水が約13メートル。ディーゼルエンジンを推力とする船で、船自体は約5万トンの重量がある。積める石炭の量は約10万トンで、この量は、発電能力100万キロワットの火力発電所を約半月稼働させられる量に相当する。

長崎県の大島造船所で造られ、東北電力が専用船としてチャーターし、日本とオーストラリア、カナダ、インドネシア、南アフリカなどの間で石炭を輸送している。12月18日現在で、すでに6航海を終え、今再びオーストラリアに向けて航行中だ。

 

4段式、高さ53メートル、幅15メートルの三日月型の帆

松風丸の船首部にはWind Challengerが設置されている。帆は4段の伸縮式で、最も伸びたときの高さは53メートルになり、幅は15メートルある。断面は三日月形をしており、全展開時の表面積は約800平方メートルになる。帆の内部は中空で、表面を軽量で丈夫な素材で覆っており、強度を維持しながら軽量化する設計が取り入れられている。最も縮んだときの高さは23メートルだ。

オフィスビル1階分の高さを3メートルと想定すれば、高さ53メートルは約18階相当にもなる巨大なものだ。その伸縮は、帆の中にあるスパー(支柱)が伸び縮みすることでなされる。

帆はきわめて屈強だ。商船三井の技術・デジタル戦略本部 技術部 ゼロエミッション技術革新チームのサブチームリーダーとしてWind Challengerの技術開発を担ってきた若林陽一は次のように話す。「帆を畳んだ状態であれば、秒速50メートル以上の強風にまで耐えられます。帆を伸縮するスパーの根元には歪みを計測するセンサーがあり、全体の荷重の変化を常時測定し、帆の伸縮を自動的に制御しています」。

開発担当者2            技術・デジタル戦略本部 技術部 ゼロエミッション技術革新チーム 若林陽一

スクリーンショット 2024-03-12 154338これまでの帆船の帆とは異なり独自の形状をしているWind Challenger

この帆が、風を受けて船に推力を与え、省エネ効果を発揮する。削減できるGHGは、日本~オーストラリア東岸の南北航路で約5%、日本~北米西岸の東西航路で約8%だ。

この5~8%という数値を、意外に少ないと感じる人がいるかもしれない。しかし松風丸規模の大型商船は1日に10トン単位の燃料(C重油)を消費する。大型商船でGHGを数%削減するというのは、相当量の重油を節約できることを意味し、仮に、重油の消費量を1日当たり1トン削減できたとすると、CO2排出量を約3トン削減可能だ。また、今後、アンモニアや水素などに燃料転換が行われたとしても、風は推進力として利用可能であり、機関や燃料の種類に拘らず搭載が可能なのもWind Challengerの特徴である。

「業界の人からは、『5~8%なんて言ってしまって良いの』と驚かれましたが、私たちは、それだけ自信を持って、このシステムを世に送り出したということなのです。実際、これまでの航海では、ほぼシミュレーション通りのGHG削減効果を出してくれています」(水本)

画像6-2 スクリーンショット 2024-03-12 153915

ところで高さ53メートル、横幅15メートルの構造物が自在に伸縮・回転しながら風を捉え、船を前進させるのだが、こんな巨大な“構造部”が船首にあって船のバランスが崩れてしまったりすることはないのだろうか。

そんな心配に若林は「バラ積み船は船体構造的に安定性が高い船であり、石炭を積んだ松風丸の総重量は15万トンにもなります。それと比較するとWind Challengerの構造体は非常に軽いといえ、船のバランスを損なうようなことはありません」と説明する。

 

前編はWind Challengerの硬翼帆を中心にご説明しました。
次回、「最新の船も帆を備える時代が来る (中編)」もお楽しみに!

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