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【米州地域代表 一田 朋聡】 新規事業開発、ビジネスインテリジェンス、営業本部の統括業務経験を活かし、 深化×探索による「両利きの経営」を目指す

  • 海運全般

2023年07月11日

100年以上続いた化石燃料の時代を経て、クリーンエネルギーへの転換期を迎えている今。2050年にネットゼロ・エミッション達成を掲げる商船三井では、経営計画「BLUE ACTION 2035」の中で重要な取り組み課題の一つ「海洋・地球環境の保全」における目標とアクションを示した「環境ビジョン2.2」を策定し、環境課題解決に取り組んでいます。2023年4月から米州地域担当役員に就任した常務執行役員 一田 朋聡は、同地域での既存事業の深化とともに、次世代クリーンエネルギーの新たなビジネスモデルの探索を精力的に推し進めています。今回、ベンチャー・スタートアップからトラディッショナルまで様々なグローバル企業が集う米州地域において、商船三井グループとしての活動状況や今後の取組について一田氏に伺いました。

米州地域のポテンシャルをさらに引き出す「深化」

ーーー米州地域代表就任にあたっての抱負をお聞かせください。

一田

  • 入社時は人事部で採用を担当し、半年後にコンテナ船営業に異動となり北米航路を担当しました。学生時代に初めて行った海外旅行がアメリカだったので、いつかは住んでみたいと思っていましたがもう無理だろうな……と思っていたところこの度北米地域担当として赴任することとなり運命的なものを感じました。北米と南米という広大なエリアは商船三井のビジネスとして大きなインパクトを持つ地域ですので、身が引き締まる思いです。しかしやりたいことは明確で、既存事業の「深化」と新規事業の「探索」という「両利きの経営」を目指しています。
  • 商船三井米州地域代表 既存事業の「深化」と新規事業の「探索」という「両利きの経営」を目指す

ーーー「深化」と「探索」がキーワードですね。まずは既存事業の「深化」に関して、どのような活動をされているのでしょうか。

一田

    • 米州地域での主な事業としては、自動車、ドライバルク、ケミカル、エネルギーなどの輸送事業、ロジスティクス事業が挙げられます。

      特に米州では自動車輸送が主力事業であり、輸出入合わせて年間約90万台弱の完成車を輸送していますこれは6000台積自動車運搬船をベースに隻数換算すると約150隻分に相当しますので、非常に大きなマーケットだと再認識しています。そのほかドライバルクではチリからの銅精鉱輸送、テキサス州等のメキシコ湾沿岸地域からのケミカル製品輸送も重要な拠点です。石油&ガスについては北米からのLNG輸送やブラジル沖でのオフショア事業なども事業拡大しています。ロジスティクス事業ではMOL Logistics社が米州各地に拠点を持ち、それぞれ地域に密着したビジネスを展開しています。各事業部とも駐在員と現地スタッフが非常に良好なチームワークを発揮していますので、この状態をサポートしていきたいですね。
    • 商船三井北米地域のMOL Group map
  • 北米のMOL Group map

  • 商船三井グループの北米オフィス
  • 北米オフィス

  • また、既存事業では新たな事業の種や成長ドライバーが生まれてくる可能性が高いと見ています。米国では今後、電気自動車(EV)が主流になるといわれており、IAEAのレポートによると2030年には新車出荷台数の6割がEVになるという予測も出ています。そうなればバッテリー生産のための部材や再エネ利用の増加に伴う銅の需要が高まったり、といった変化が起こります。また「物流」という面でもグローバルサプライチェーンの変化が起こっており、今後エネルギー効率の最適化や脱炭素の流れから「地産地消型」の物流が増えてくることが予想されます。さらには物理的に物を運ぶことに加えて、如何に輸送に付加価値をつけるかという観点も重要です。例えばA地点で原料を積み込み、B地点に着くまでに船内や車内で加工することができれば新たな価値を生むことができます。物流が成熟した今こそ、その物理的な移動時間という価値に新たな別の価値を上乗せすることができないか考えているところです。

次世代エネルギー事業の「探索」で社会インフラ企業へ進化する

ーーーでは、新規事業の「探索」はいかがでしょうか?

一田

  • エネルギー営業戦略部時代から取り組んできた、「海洋クリーンエネルギー事業へのトランスフォーメーション」を米州地域でも展開していきます。

    まず、次世代エネルギー事業での上流投資についてですが、ひとつは船舶用の代替燃料として有力視されている、アンモニアやeメタノールの製造・供給に関与していきます。代替燃料の生産・供給事業への投資を通じて製造工程やコスト体形、品質をしっかり把握し、燃料の供給確保はもちろんのこと、安全対策にしっかり取り組んでいきます。また、エネルギー転換に伴い新たなバリューチェーンが創出されることとなります。これを事業機会と捉え、従来の海運業に加えて、今後は上流や下流などバリューチェーン全体に当社が事業参画することで、様々なパートナーと連携しクリーンエネルギー事業を構築したいと考えています。これらの活動を通じて商船三井が次世代エネルギーでの社会インフラ企業へと脱皮する足掛かりとしたいと考えています。

商船三井環境ビジョン2.2 海洋エネルギー事業へのトランスフォーメーション
MOLグループ 環境ビジョン2.2(抜粋)

  • 次に、スタートアップやベンチャー企業への投資です。将来間違いなく必要になる技術開発に初期段階から投資し、長期的な目線でのビジネスチャンスを狙います。例えば次世代エネルギーの新しい製造技術が投資対象の1つとして考えられます。20世紀初頭に発明された「ハーバー・ボッシュ法」はアンモニア合成における革命的な製造法であり、人類に多くの恵みをもたらしましたが、大量のエネルギーを必要とする点が課題です。最近ではこれに代替する製造技術の研究が進んでおり、注視しています。

  • (関連ブログ)注目されるアンモニア 知っておきたい5つの事 

  • ネットゼロ・エミッションへの取り組みとしては、CO2を回収し貯蔵・利用するCCS※・CCUS※が話題になっており、回収したCO2を地中に戻し貯留することでカーボンクレジットを創出することや、回収したCO2を再エネ由来の水素と反応させてeメタノールを製造するなど、CO2の回収及び回収後の様々な活用方法が議論されています。またアメリカではOcean CDR (Carbon Dioxide Removal) という、海のCO2吸収力を使って海洋に貯蔵する技術についても研究が盛んです。
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  • (関連ブログ)カーボンニュートラル時代に期待されるCCUSとは(前編)(後編

  • 今年5月、脱炭素技術に関するビジネスを開発するスタートアップ企業への投資を目的として「MOL Switch」を設立し、私がその代表に就任しました。「Switch」は、「環境価値の事業化を目指し新たなステージへのスイッチを入れる」という意味を込めた名前です。シリコンバレーという立地を活かし、ベンチャー・スタートアップのみならず大学や研究機関とのネットワークも構築していきたいと考えています。
  • ※CCS…「Carbon dioxide Capture and Storage」の略。様々な産業から排出されたCO2を分離・回収し、地中等に貯留・圧入すること。
  • ※CCUS…「Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage」の略。分離・貯留したCO2を利用すること。

ーーー南米エリアではどのような展開を考えていますか?

一田

  • グローバルとローカルを融合させた「グローカルなビジネスモデル」を構築していきたいですね。独自の文化を持つ南米では、私たちにはまだ見えていないビジネスチャンスが眠っています。世界中に拠点を持つ商船三井のネットワークを活かし、他地域でのベストプラクティスを共有しながらそれぞれの地域にフィットした地域密着型のビジネスを発展させていきます。
  • 商船三井グループの南米オフィス
  • 南米オフィス

ーーー新しいアイデアが次から次へと出てきますね。その源はなんなのでしょうか?

ー田

  • オセロでゲームを有利に展開するには四隅を取ることが大切であるように、ビジネスでも押さえるべきポイントを見極めることが大切です。あることを実現させたい時に、足りないところ、埋めたい部分を意識しつつ、常にアンテナを張って情報収集するよう心掛けています。しかし特別難しいことをしているわけではなく、日頃の生活の中でちょっとした変化に興味を持ち、それに対してどのような気づきがあったかなど内省することを大切にしています。新聞やネットだけでは、どうしても情報が偏りがちになってしまいます。自分の関心の外にこそ新しい気付きがありますから、「1日1回の感動」と「感謝の気持ち」を大切にし垣根なく様々な人と会って話すことを楽しむなかで着想を得ています。これまでお付き合い頂いている方々、そして将来出会うであろう方々全ての皆さんに感謝しています。
  • 商船三井米州地域代表 1日1回の感動と感謝の気持ちを大切にする

政治・経済の動向を注視し経営計画へ紐づける

ーーー米州地域で最近注目しているトピックスは?

一田

  • 一番は来年の大統領選です。今は民主党政権下で環境対策を重視しており、IRA(インフレ抑制法)では「エネルギー安全保障と気候変動」の分野で、税控除や補助金等を通じて約3700億ドルを投じています。クリーン電力に対する税制優遇や、クリーン電力の導入を支える製造業への支援など、環境事業者への資金援助が盛んです。その為、気候変動対策関連技術を持つスタートアップが多数出ており、我々も米国の諸制度を活用しながら、自社の経営計画の達成に結び付けていきたいと考えています。その一方で、大統領選の結果次第では大きな政策転換が生じる可能性があります。その場合どのような変化の可能性があるのか今後注意深く見ていきたいと思っています。
    また米中関係やロシアによるウクライナ侵攻など地政学・地経学リスクが高まっている中、米国が世界経済に与える影響は大きいことから、米国の政治・経済動向に注目しています。経済面では今年後半からリセッション(景気後退局面)に入るという説もあり、アメリカ国内でしか得られない情報を集め、動向を注視していきます。

健康第一!「一日一生」の思いで駐在生活を楽しむ

ーーー毎日お忙しいと思いますが、駐在生活で気を付けていることはありますか?

一田

  • そうですね。米州地域担当に就任してちょうど2か月ですが、出張も多く米州各地を飛び回っているため常にタイムゾーンが変わっている状態です。時差ボケがなかなか抜けませんが、私の特技はどこでも眠れることなのでちょっとした合間を見つけて睡眠をとっています。

    あとはこちらに来てからランニングを再開しました。平日は7~8km、週末は15km程度、ハドソン川沿いを走っています。走っていると気分もリフレッシュでき、時には新しいアイデアも出てくることがあり、仕事の面でも役立っているかもしれません。また料理が好きなので自炊をし好きなものを食べています。これまでにはなかった休肝日を設けたり健康には気を付けています。初めて海外駐在した際、上司から「海外駐在は1に健康、2に家族、3・4がなくて5に仕事」だと言われましたが、自分と家族が健康に過ごすことが何よりも大切で、その結果良い仕事につながるのだと思っています。
  • ハドソン川沿いはランニングコースに最適
  • ハドソン川沿いはランニングコースに最適

  • また海外で働くときには、「その国で働かせてもらっている」という気持ちを忘れないようにしています。日本企業であっても海外現地法人はその土地で働くスタッフ皆さんの会社です。その地で新たな付加価値を生み出し、現地で働くスタッフ皆さんが誇れる会社であり続けられるようお手伝いしたいと思っています。

    座右の銘は「一日一生」。一日を一生のごとく生きる、という意味を持つ天台宗の僧侶・酒井 雄哉氏の言葉です。ひとくくりでは語れない多彩な顔を持ち、ダイナミックな進化を続ける米州での日々を、大切に、前向きに楽しんでいきたいと思います。
MOL Group in Americas  

一田 朋聡(いちだ ともあき) 常務執行役員 MOL (Americas) Holdings, Inc. President

プロフィール
一田 朋聡(いちだ ともあき)
常務執行役員
MOL (Americas) Holdings, Inc. President

 

東京都出身。1992年慶応義塾大学商学部卒、同年商船三井入社。
人事部、北米部、油送船部などを担当。1997~2001年にタイ、11~16年にロンドン駐在。16~18年油送船部プロダクト船第2グループリーダー、18~20年旭タンカー出向。20年からエネルギー営業戦略部長。22年4月から燃料部、液化ガス事業群第1ユニット〈LPG/アンモニア事業〉を兼務。23年4月から米州地域担当役員に就任。5月からMOL switch代表を兼務。19年船舶の電動化・デジタル化を目指す海運ソリューションプロバイダー「㈱e5ラボ」を設立し取締役CEOに就任(現在Executive Advisorを務める)

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