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【南アジア・中東地域代表 Ajay Singh】責任と権限を共有し、意思決定のスピードと質を向上させ、クリーンエネルギー関連事業を加速

  • 海運全般

2023年11月28日

「私たちは今、変革の真っ只中です。」南アジア・中東地域担当常務執行役員であるAjay Singh(アジャイ シン)氏はインタビューの冒頭で力強く語りました。今年4月に発表された商船三井グループ経営計画BLUE ACTION 2035において示された地域戦略は、世界の主要地域において当社の今後の成長性を確たるものにすることを目的としています。これを実現するため、各地域組織に権限委譲を行い、目の前の市場開拓にしっかりと取り組むことを促すとともに、意思決定のスピードと質を高めることにチャレンジしています。インドを先行して、2022年地域を中心とした事業開拓をスタートさせSingh氏がその指揮を取りました。

新しい経営計画と共に、「商船三井グループ環境ビジョン2.2」にて、2050年までに温室効果ガス(GHG)のネットゼロ・エミッションを達成することを目標に掲げ、持続可能な世界の実現を目指しています。商船三井は、20231130日から1212日までドバイで開催されるCOP28(国連気候変動枠組条約第28 回締約国会議)にて環境省が主催するジャパン・パビリオンへの出展企業として採択されました。当社が長い時間をかけて開発してきた環境負荷低減の取り組み、その過程で開発されてきた技術を世界に向け発信します。

経済成長が加速しているインドと世界最大級のエネルギー供給国を含む南アジアと中東地域での今後の取り組みについてSingh氏に伺いました。

マインドセットの変革期

MOL Ajay Singh MEO

―――昨年MOLの常務執行役員として就任されました。1年間を振り返って、感想や現状、達成感などを教えていただけますでしょうか?

Singh

私は他業界から商船三井に入社したので、新しい知識を得ることに楽しさを感じています。海運業界は、私の出身であるエネルギー業界と多くの面で共通しています。資本集約的であり、市況の変動に晒され、組織的な複雑さがあります。商船三井は、非常に実直で、フレンドリーな社風(組織風土)があり、居心地の良さを感じています。

ビジネスの観点で言うと、私たちは変革の真っ只中にいます。それは私の担当地域だけではなく、BA2035で掲げたビジョン達成に向けて、商船三井グループが一丸となって取り組んでいるグローバル全体にいえます。南アジア・中東地域(SA-ME地域)においては、従来の海運代理店や物流フォワーディングの領域を超えて、より積極的な成長に向けた取り組みを開始しています。これまでのところ、最大の成果はSakura Energy (現在はMOL Indiaに改名) の設立です。今年はタンカー、LNG(液化天然ガス)船、ケミカルタンカー、さらには一時的にチャーターされたバルク船を含むいくつかのセグメントをカバーする11隻にまで船隊規模が成長しました。これは、マーケットのニーズに基づいて、複数の事業部門が一つのチームとして活動していくことを意味する「One MOL」を表す新しいアプローチです。LNG(液化天然ガス)事業は非常に好調で、Qatar Energy社、及びGAIL社と新規契約を締結し、PCC (Pure Car Carrier) 事業は、インド国内の主要なメーカーと長期契約を獲得しました。また、コールドチェーン (低温) 等のロジスティクス、そして、既に二つのプロジェクトが進行中の不動産などの新規事業への参入を目指しています。さらにはインドを船舶管理・IT管理サービスの拠点としても成長させたいと考えており、実際に当社のムンバイ船舶管理チームは、今年度5隻のLPG船を引き受け、船員配乗管理業を主体としたMOL Maritime Indiaはこれら船舶への人員配置を行うなど、ビジネスの幅を拡大しています。
中東地域では、UAE (アラブ首長国連邦) において、二つのロジスティクスプロジェクトに加え、輸送時の脱炭素化について多くの企業と交渉を進めています。

このように、インド・中東地域におけるこれまでの成果や、様々なビジネスチャンスがあることには満足していますが、さらに上を目指したいと考えています。

当該地域は新しく発足した組織のため、ビジネスを成長させると同時に組織を構築しています。4月には新しい地域組織体制が発表され、社外からも経験豊富な様々な分野の専門家が我々のメンバーとして加わりました。私たちは、最前線でお客様と接点のある人々がよりイニシアティブをとれるように、文化の多様化を目指しています。MOL Indiaは、複数の事業を含むプロフィットセンターとして新会社を設立し、共通の人事・財務管理システムを構築しています。人事関連だと、当社は人材の発掘と育成を主体として、南アジア・中東地域におけるリーダーシップ開発のフレームワークを11月に発表しました。このようにマインドセットの変化が徐々に起こっており、私はそれが現時点で最も心強いことだと思っています。

 

―――インドモデルは社内に大きなインパクトがありました。成果をあげた理由については、どのようにお考えでしょうか?

Singh

私たちが現在「インドモデル」と呼んでいるものの重要なポイントは、企業として、競合他社よりも高品質で、コストパフォーマンスが良く、迅速な対応を一貫してお客様に提供しなければならないということであり、更なる改善が必要だと考えています。そのためには、実際にお客さまと接するスタッフと東京の各部門のスタッフが一体となって、お客さまのことを第一に考え、従来のやり方ではなく、部門横断でお客様のニーズやビジネス機会を柔軟に捉える必要があります。これは、商船三井があまり知られていない可能性のある新市場で成長しようとするときにも重要です。特にインドでは現在、世界屈指の企業が競争に挑んでいます。本社と地域間の「統合チーム」の概念や、それに属するシニアレベルのスタッフ、つまり部長や執行役員の参加・主導する会議では、関連する各部門の全員が参加することが重要です。新規案件の進捗状況や業務上の問題点など、どんなことでも定期的にフォローアップし、成長を妨げている問題や顧客の満足度が低い原因となっている問題を特定し、タイムリーに解決することに注力しています。これは優れた企業の常識であると考えています。私たちは責任と権限を共有し、協力して意思決定を行います。時には困難や、対立が起こることもあります。しかし、同僚たちは皆これらの課題に対処し、成功を収めています。

商船三井グループの3つの強み

―――他に商船三井の強みはどのような点が挙げられますか?

Singh

商船三井の最大の強みはブランドであると思っています。品質、誠実さ、ビジネスの進め方、そして140年間近く存在していることが、お客様からの信頼を表していると思います。残念ながら、そのブランドは海運コミュニティ外ではあまり認知されていません。しかし、海運市場では認知度もあり、馴染みのある企業です。私の担当地域における多くのお客様(特に海運関係のお客様)は、商船三井のサービスをどれほど高く評価しているかを話してくれます。私たちは、このように高い評判を頂ける企業になるために優れた仕事をしてきたと自負しています。これが私たちの第一の強みだと思います。

次に、私の担当地域について言及すると、質の高いビジネスを築き上げてきた点が挙げられると考えます。例えば、LNGビジネスやPCCビジネスで築き上げた知見から、この地域でどのように動けば、良いビジネスに繋がるかを知る人材が当社には多く在籍しています。インド人船員は社内で最も重要なコミュニティのひとつであり、私たちは彼らの問題解決姿勢を活用して物事を成し遂げることができます。営業担当が高度な経験を必要とする船のオペレーション業務(船をどや技術的な問題に直面したとき、実際にそのような問題を経験した者を巻き込むことがより良い解決策を導くことになることがあります。

そして3つ目は、私たちが企業として優れた「バリュー・プロポジション」、つまりお客様のニーズが高く、かつ商船三井だからこそ提供できる「製品」や「サービス」を持っているという事実です。特にクリーンエネルギー関連の事業分野については、競合他社との差別化を図り、新たなビジネスを獲得していきたいと考えています。

気候変動への挑戦~積極的に社会のニーズに応える~

 

MOL Ajay Singh MEO

―――COP28について伺います。商船三井はドバイで開催されるジャパン・パビリオンへの展示に採択されました。意気込みをお聞かせください。

Singh

商船三井が採択されたことを非常に光栄に思います。
まずは、気候変動の課題に対応する解決策を持ち、積極的に社会のニーズに応える漸進的な企業であるという立場を示したいです。風力などのクリーンで、無尽蔵のエネルギー源を利用する技術や、水素やアンモニアなどの将来のエネルギー源を利用する技術など、私たちは多くの技術を持っています。ジャパン・パビリオンでは、「船舶における風力活用技術」をテーマに、次世代風力推進帆「ウインドチャレンジャー」や、グリーン水素生産船「ウインドハンター」を展示し、これらの技術や当社の取り組みを世界に向けて発信します。

代表取締役社長の橋本は、COP28に関連する主要なイベントで、商船三井の実践的なアプローチについて発表予定です。残念ながら、世界中で進行中のクライメート・ダイアログ(Climate Dialogue)(気候変動に対する対話)では、炭素税の導入やそのような措置の影響が各地域や経済部門にどのように分配されるべきかなど、様々な課題が残っており、その解決策を世界全体で議論している途中です。そのため、そのような議論の中で商船三井の存在感を示し、肯定的で積極的な立場を見せることは非常に重要です。

2つ目としては、中東での事業開発を進める機会にすることです。サウジアラビア、アラブ首長国連邦、オマーンなど多くの国々が、COP28をクリーンエネルギーがもたらす新たな経済的機会と捉え、エネルギー供給国としての地位を維持する方法を模索しています。我々はこれらの国へのクリーンな船舶技術の導入を推進すること等を通じて、その他の国々とも新たな協業の道を模索したいと考えています。

COP28 Japan online pavilion MOL booth

COP28ヴァーチャル・ジャパン・パビリオンの商船三井ブースは上の画像をクリックして下さい

 

―――商船三井が大きな国営企業とのパートナーシップを締結することについて、どのようにお考えでしょうか?

Singh

パートナーシップを組むことは様々な可能性を秘めていると考えます。例をあげると、オマーンにはオマーン船舶会社との合弁企業があり、私たちは何年も前に設立する支援を行いました。カタールやアラブ首長国連邦などの一部の国々のように、自国の海運企業が非常に発展している国もありますが、それ以外の国にもチャンスがあるかもしれません。

南アジア・中東地域組織を「One MOL」のモデルに

―――南アジア・中東地域についてどのような展開をお考えですか?

Singh

長期的な目標は海外市場での事業拡大を成功させ、グローバル組織へと成長させることです。南アジア・中東の地域組織体制のさらなる発展は、この目標を達成するための礎だと考えています。これは、既にMOLグループ全体に定着しつつある「One MOL」というスローガンにもその意味が込められています。

事業間の連携強化や、顧客中心のソリューションを常に考え、意思決定のスピードと質を向上させ、貴重な人材をより効率的に発掘・活用するためにも、インドのグループ会社を統合するなどの具体的な取り組みを継続していきます。また、本社と共通の人事・教育システムを導入することで、優秀な人材の獲得と、その人材を適材適所に配置し、グローバルビジネスに貢献できる社員として育成していきたいと考えています。同様に、統一された財務管理システムの導入も進行中です。貴重な財務資源をより効率的に活用することができ、コスト競争力を持ちつつ利益を上げるビジネスを継続して行っていくためにも、重要な取り組みです。これらは私たちがグローバル組織へと成長することを目標とした「One MOL」の実践的な側面の一部です。

私は、商船三井の各地域への投資が、地域の世界GDPに対するシェアを反映、または上回るようにしたいと考えています。その中でも、特に南アジア・中東は成長地域であるため、そこに投資を行うことは理にかなっていると思いますし、これは、私たちの船舶ビジネスを拡大するだけでなく、コールドチェーン物流、鉄道物流、不動産などの新たな分野への参入を模索する事を意味します。

また、インドには、若年層が多く、生活を良くしたいという思いも強く野心的で、物事の革新的なアイデアを生み出そうとしています。さらにインドには、宇宙技術からデジタル技術まで幅広い多くのスタートアップ企業が存在し、さまざまな産業の技術設計、開発、エンジニアリングのグローバルセンターとしてもますます注目されています。例えば、前職のShellでは、3つのグローバルR&Dセンターを運営しており、そのうちの一つはバンガロールに設置され(他の2つはアムステルダムとヒューストン)、数百人の科学者とエンジニアを雇用しています。したがって、私の担当地域は単なるマーケットではなく、ビジネスをグローバルに展開する拠点でもあるのです。

MOL India HR workshop

          ムンバイでの社員向け人材育成に関する説明会の様子


MOL INDIA VLGC HISUI Sakura Energy (現MOL India) とSA-ME地域の同僚とVLGC HISUIの機関室にて
(左から3人目がSingh氏)

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  • 外国文化により親しみを

     

―――海外勤務を経て感じた日本企業(商船三井)の可能性とは?

Singh

これまでのキャリアで、素晴らしい経営文化を持つインド、ヨーロッパ、日本3つの国・地域で働いてきました。その中で働いてきた経験から言えることは、日本の純粋さ、忍耐力、勤勉さ、困難を乗り越える力、良好な関係を重視するという特性は、非常に大きな強みであるということです。これらに果断なリーダーシップと問題解決力、チャンスに迅速に対応する文化が組み合わさると、素晴らしい成果を上げることができるでしょう。

日本人のスタッフが異文化と自由に交流できるようになることも、私たちが注力している分野の一つです。私自身が母国以外の文化の中で生活をしてきたので、これがどれほど大変なことかは非常によく理解しています。しかし、他者・他国の影響を受ける事で自分の取り組む姿勢や信念を変えることでき、大いに成長できることも知っています。

日本企業も、より柔軟な組織システムを採用する必要があり、そのためにはよりオープンで柔軟な考え方が重要です。現在、革新的なビジネスモデルや新たなビジネスの進め方が次々と登場しています。日本企業は、このような変化に追いつくだけではなく、勝つために競争していく必要があると考えています。


―――週末や休日にはどのようにリフレッシュしていますか?

Singh

休日はいつも妻と子供二人の家族で過ごしています。現在、子供たちは海外の大学に通っているので、休暇で日本に帰ってくると、家での時間を楽しんだり、外食をしたり、東京郊外へ出かけたりします。また、家族をドライブに連れていくのも好きです。日本各地を訪れていますが、沖縄だけはまだ訪れていないため、近々行きたいですね。あとは妻と二人で映画を家で観てリラックスしたり、妻は芸術・アートが趣味のため、お気に入りの美術館にも行ったりしています。それ以外にも、最近は週末に妻とガーデニングを楽しんだりしていますが、他にもやりたいことはたくさんあるので、時間が足りないくらいです。

 

■AJAY SINGH(アジャイ・シン)
南アジア・中東地域担当
2020年10月、LNG船部、ガス・海洋事業部 部付顧問として商船三井に入社。
ー2022年4月、常務執行役員に就任。

【経歴】
・JAPEX 石油資源開発株式会社、東京(2014-20):会長及び社長の特別顧問、戦略&コマーシャル部門の責任者
・Shellグループ企業に勤務、デリー、ムンバイ、ロンドン、ハーグ駐在を経験(1995- 2014):上流~下流事業、LNGビジネス、新規プロジェクト・技術開発を担当

【学歴】
・ウォルチャンド工科大学(インド) Bachelor of Engineering
・マンチェスター大学(イギリス) MBA 
・ハーバード・ビジネス・スクール(アメリカ) Advanced Management Program

 

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