BLOG ブログ

日本の海上輸送を支える外国人船員について

  • 海運全般

2021年07月03日

エネルギーや製品をはじめとする人々の生活を支える品々の輸送を担う海上輸送は、世界の国民生活および経済を支える上で大きな役割を果たしており、安定的な海上輸送の維持・確保は極めて重要です。特に、周囲を海に囲まれ資源に乏しい日本では、貿易量の99%以上を海上輸送が占めており、海上輸送の安全維持は、より重要な意味を持ちます。本ブログでは、実際に船という現場から、海上輸送を支えている乗組員(Crew)のことについてお話します。

外国人船員に依存する日本外航船隊

日本の海運会社が運航する外航船隊は、2020年末の時点でトン数では233百万トン超、隻数では約3900隻とギリシアに次いで世界第2位の規模を維持しています。(UNCTAD:Review of Maritime Transport 2020より)

その外航船隊に乗船する船員は推計で約5.5万人(乗組員定員ベース)、うち外国人船員はフィリピン人が約75%、その他のアジア人(インド人、中国人、インドネシア人など)が20%。日本人の比率は約3.5%程度とみられ、外国人船員、とりわけフィリピン人などアジアの船員に9割以上大きく依存している状況です。(国土交通省:外航海運の現状と外航海運政策より)

一方、外航海運に従事する日本人船員の数は、上述の通り2,000人程度、フィリピン人船員40,000人程度と比較し、かなり少ないことがわかります。実は、1970年代前半には5万人以上の日本人船員が外航船の乗組員として乗船していました。しかし、徐々に賃金の比較的安い外国人船員が増え、1980年には38,000人にまで減少、さらに1985年のプラザ合意以降の円高の影響により、海運会社がいわゆる緊急雇用対策を実施したこともあり、日本人船員数の大幅減少を招きました。その後、2000年には5,030人、2008年には2,315人になって以降は2,100~2,300人で推移しています。(以下グラフ参照)
(補足:内航船員(約27,000人)、漁業船員(約18,000人)、その他(はしけ、官公署船等)を含めると日本人船員数は合計約64,000人(2017年)となります。)

外航日本人船員数の推移

外航日本人船員数の推移
出典:SHIPPING NOW 2020-2021[データ編](日本海事センター)

日本人船員は、現在ではその役割が進化しており、乗組員として乗船するだけではなく、多国籍化および高度化した船舶運航のエキスパートとして、船舶の運航、外国人乗組員を支援、指導していく事を大きく期待されています。海運会社にとって最も重要である安全運航の遂行のため、海技ノウハウの深化・伝承を行い、陸上で勤務する海技者として船舶運航への支援、船舶管理、営業部門への技術的支援を行っています。安全運航かつ安定輸送を求めるお客様からのニーズも高く、今後も一定数の日本人船員・海技者の維持・育成は日本海運の発展にとって不可欠です。

大多数を占めるフィリピン人船員

世界の船隊で見ると、外航海運に従事する船員の数は約165万人、うち「職員」が77万人、「部員」が87万人(*1)。船員を供給している国のトップ5は、フィリピン、中国、インドネシア、ロシア、ウクライナです。(出典:国際海運会議所データより推計)
その中でもフィリピンが最大の船員供給国であり、世界の船上で働くフィリピン人労働者(外航海運の船員の他に、クルーズ船のホテルスタッフ等も含む)は約45万人とみられ、世界の船上労働者の20%以上に相当する規模です。
さらに、その内の10%に相当する4万人以上が、日本の外航船隊に乗船しており、同船隊においては、乗組員の4人に1人がフィリピン人船員と見込まれます。フィリピン人船員の他には、インド人、ミャンマー人、中国人などアジア船員が1万人以上が乗務しています。

(*1)「職員」:船長航海士機関長機関士など、主に操船に関わる乗組員。
  「部員」:「職員」以外の乗組員で、甲板長、操機長、司厨長など。

労働人口が豊富で英語が堪能な人材に恵まれたフィリピンは、今では世界トップの船員供給国です。1970年代から便宜置籍船が増加、1980年代に国際船員市場において、フィリピン人船員の数は爆発的に増加しました。フィリピンは1946年に独立するまで50年近くも米国の統治下にあったことから、米国基準による英語教育を受け、ライセンスをもつフィリピン人船員は海運会社にとって大きな魅力となりました。
フィリピンでは、船員になるための学校や船員派遣会社が多数存在しており、職員なるためには通常大学を卒業する必要がありますが、部員についてはより登用されやすい環境にあります。乗組員という職業は、長期的な高収入が得られ、経験者であれば雇用契約が満了してもすぐ次の船がみつかることが多く、安定した職業として人気の一つとなっています。

”船員の日”~海外より自国を支えるフィリピン人~ 


フィリピンの重要な外貨収入源である海外就業者からの送金は、2020年に299億ドルに達しましたが、このうち約2割(63億ドル)は船員や客船サービススタッフなど海上労働者によるものです。

philipino oversea remittance chart 出典:フィリピン中央銀行 作成:MOL

 


フィリピン政府も「船員の日」を制定し、自国船員に対して感謝を表しています。
2020年は、新型コロナウィルスの影響に伴う各国の入出国規制の影響で、世界で数十万人の船員が上陸できず、数か月にわたり海上に残されるという状況がありました。多くの船員を抱えるフィリピン政府は、自国船員が円滑に下船・交代できるよう空港などに船員専用の入国レーンを設けるなどして、特別措置を講じた例もあります。

船員に限らず、コロナ渦においては、誰しも苦しい時間を過ごしたと思いますが、帰国予定であった乗組員が、船上から陸上に降りられず、帰国の目途もたたないという状況は、とてもつらいものがあったと想像します。そのような状況にあっても、安全運航に貢献してくれた全乗組員の皆様に敬意を示したいと思います。

フィリピン人材の特徴とは…気になった方はこちらをクリック

船員教育の現状とは

このようにフィリピン人船員は、世界の海運業とフィリピン経済に大きく貢献していますが、その育成には日本の海運会社が積極的に参画しています。
商船三井は、長年にわたって船員の教育や配乗で提携してきた現地人材サービス大手のマグサイサイ・グループと合弁で、2018年、マニラ南郊に全寮制の商船大学「MOLマグサイサイ・マリタイム・アカデミー」を開講しました。13.2ヘクタールのキャンパスには、教育棟、訓練船、救命艇の降下訓練も可能なプールや宿舎棟が並び、特に訓練船にはシミュレーターを備えた船橋やメインエンジンルームなど、実際の船さながらの設備がそろっており、実機とシミュレーターを複合した実習を行っています。1学年当たりの生徒数は約300名(航海士150名、機関士150名)。その他、世界6拠点に当社グループ会社向けの訓練施設を設置し、船員に求められるノウハウ・技術を、新人・ベテラン、職員・部員問わず全ての職位に対して教育しています。今後ますます世界的にひっ迫することが予想される「職員」の育成に力をいれています。

当社の海技教育・訓練についてもっと知りたい方はこちらをクリック

MOLマグサイサイ・マリタイム・アカデミーが有する訓練船と救命艇の降下訓練が可能なプール
MOLマグサイサイ・マリタイム・アカデミーが有する訓練船と救命艇の降下訓練が可能なプール

近年のフィリピンの経済成長は著しく、IMF(World Economic Database)によると2020年を除き、2012年以降7年連続して6%以上の成長をみせており、2021年4月時点でCOVID-19前までの水準に近づくという推計がでております。その影響もあって、若い労働人口が豊富なフィリピンでも、製造業に人が集まりにくくなっている現状ですが、外航船員の待遇は比較的良好で、地域を問わず人気があり、高倍率の試験を通過して入学してきた生徒はロイヤリティー、定着率ともに高くなっています。日本の海運会社に就職できることや、資格取得条件である乗船訓練(1年間)の経費が学校側負担になっていることも、商船大学「MOLマグサイサイ・マリタイム・アカデミー」の人気が高い理由です。
同校の卒業生は、約半数が商船三井に、残る半数がマグサイサイ・グループを通じて他の海運会社などに就職する予定です。この教育事業は、自社の人材確保のみならず、自社以外への人材供給という面から、フィリピンの雇用を底上げする役割も果たしています。また、船員となる人材はフィリピン全国から集まってきますが、就業先が限られた地方の若者に、魅力ある雇用機会を与えるという意味でも、船員教育は地方経済の下支えにも貢献しています。

当社がご提供可能な海技教育内容や船員トレーニングメニューは以下よりダウンロード頂けます。

新規CTA

 

M-TechKnowledge

MTK商船三井は、130年以上の歴史で培った、海洋に関する知識、操船の知見、船舶の技術、港湾・造船とのネットワーク、海洋への知識などの、海技(Marine Knowledge)・技術力(Marine Technology)をMOLの”M”、海をつかさどるMarineの”M”を冠した、M - TechKnolwedge(Technology + Marine Knowledge)として、次世代に向けて、引き続き安全運航、環境保全に取り組んで参ります。                 

AKINA.H

記事投稿者:AKINA.H

2014年中途入社。自動車船の三国間輸送の事務、ばら積み船での運航担当等を経て、2020年4月よりマーケティング部門にて本サイトの運営に携わっております。ニュースレターの作成も担当していますので、購読頂けると嬉しいです!仕事には炭酸水とカフェラテ、二日酔いにはトマトジュースです。

  • クリーン代替燃料ホワイトペーパー

  • 会社案内

  • 輸送・サービスについてのご相談

  • その他のお問い合わせ